米国株式市場では、AI関連銘柄を中心にした上昇相場が続いてきましたが、足元では少し空気が変わりつつあります。
最大の焦点は、米国時間5月20日引け後、日本時間では21日早朝に発表されるエヌビディア(NVDA)の決算です。
今回の決算は、単にエヌビディア1社の業績確認にとどまりません。AIインフラ相場全体がなお拡大を続けているのか、それとも一度、期待値の調整が必要なのかを見極める重要なイベントになります。
足元の米国株市場では、長期金利の上昇が大きな重しとなっています。米30年国債利回りは一時5.19%台まで上昇し、2007年以来の高水準となりました。背景には、イラン情勢に伴うエネルギー価格の高止まり、インフレ再燃懸念、米国の財政赤字拡大、そして長期債への需要低下があります。
金融政策面でも、市場の前提は変わりつつあります。ウォーシュ氏がFRB議長に就任する中で、トランプ大統領による利下げ圧力はなお意識されるものの、原油高とインフレ再燃の影響は無視できなくなっています。市場では、利下げではなく、むしろ利上げリスクを織り込む動きも出ています。
金利上昇は、株式市場全体のバリュエーションには逆風です。特に、将来の成長期待を大きく織り込んだテクノロジー株にとっては、本来であれば厳しい環境です。
それでもAI関連株が完全に崩れていないのは、AI投資が単なるテーマではなく、実際の企業投資、クラウド需要、半導体需要、メモリー需要、電力・ネットワーク需要に広がっているためです。
したがって、現在の米国株市場は、AI成長期待とインフレ再燃・金利上昇の綱引きに入っていると考えています。
今回のエヌビディア決算で注目すべき点は、大きく4つあります。
第一に、データセンター向け売上の伸びです。AI学習だけでなく、推論需要がどれだけ拡大しているかが焦点になります。最近では、生成AIの利用が実験段階から本番運用へ移り始めており、企業のAI活用は「試す段階」から「実際に業務で使う段階」へ進んでいます。これが続くなら、GPU需要はなお強いと考えられます。
第二に、今後の業績見通しです。市場はすでに強い決算をある程度織り込んでいます。そのため、単に良い決算というだけでは、株価が素直に上がらない可能性もあります。重要なのは、会社側が今後数四半期にわたる需要の強さをどこまで示せるかです。
第三に、顧客層の広がりです。これまでAI投資は大手クラウド企業が中心でしたが、今後はクラウド大手以外の企業、政府機関、産業用途、AIクラウド事業者へ需要が広がるかが重要です。エヌビディアの成長が一部の巨大顧客に依存しているのか、それともより幅広い顧客層へ広がっているのか、そして中国向けの販売戦略がどういった見通しになるのかは、今後の株価評価に大きく影響します。
第四に、メモリー、CPU、ネットワーク、電力インフラへの波及です。AI相場は、もはやエヌビディアだけの話ではありません。AIサーバー需要は、メモリー、アナログ半導体、パワー半導体、光通信、ネットワーク機器、電力・蓄電インフラへ広がっています。
この意味で、エヌビディア決算は「AI半導体の決算」ではなく、AIインフラ相場全体の健康診断と見るべきだと思います。
こうした点を踏まえ、5月21日(木)20時から開催予定のセミナーでは、エヌビディア決算後の米国株展望と題し、AI相場の次の一手と保守的オプション戦略についてお話しする予定ですので、ご都合のつく方はぜひご参加ください。
5月21日(木)20時~ 参加無料です。(参加申し込みは以下のQRコード、またはこちら から可能です)
※当初予定の5月14日(木)に参加を予定されていた皆様におかれましては、1週間延期となりましたことをお詫び申し上げます。14日の回にお申込いただいた方につきましては、再度の申込みは不要です。
現在、株式市場を取り巻くマクロ環境は楽観一色ではありません。
米中首脳会談を経て、半導体、関税、農産物、レアアース、航空機、そしてイラン情勢が市場の注目材料になっています。特に半導体については、エヌビディアのジェンスン・フアンCEOが訪中団に加わったことも材料視され、中国向けAIチップ販売や輸出規制を巡る期待が一部で高まりました。
ただし、具体的な規制緩和が決まったわけではありません。期待が高まった分、失望があれば半導体株には短期的な利益確定が出る可能性もあります。
また、イラン情勢も引き続き重要です。ホルムズ海峡を巡る緊張が続き、エネルギー価格が高止まりすれば、インフレ懸念と長期金利上昇を通じて株式市場の重しになります。
最近の市場で特徴的なのは、金利が上昇しても一部のAI関連株が買われる一方、すべてのテクノロジー株が買われているわけではないことです。
つまり、今の相場では、金利高でも買われるテックと、金利高で売られるテックが分かれ始めています。
金利高でも買われるのは、AI投資が売上・利益・キャッシュフローに結びつく企業です。一方、AIによる収益化が見えにくい企業、バリュエーションだけが先行している企業、競争環境が悪化している企業は、好地合いの中でも売られやすくなっています。
今後は、米国主要SaaS企業の2-4月期決算も重要になります。
ソフトウェア株については、AIの進化が追い風にも逆風にもなっています。直近ではGoogleの開発者会議 でも、Geminiの利用拡大やAIエージェント機能の強化が示されており、AIの実用化は一段と進んでいます。自律型AI、いわゆるAIエージェントが普及すれば、既存のSaaSサービスの一部は置き換えられる可能性があります。一方で、AIをうまく取り込み、顧客の業務効率化やセキュリティ強化に結びつけられる企業には、大きな成長機会があります。
特に注目されるのは、サイバーセキュリティ、データ保護、アイデンティティ管理、ログ管理、クラウド監視などの分野です。AIが本番運用に入れば、データ量は増え、攻撃対象も広がり、システムの監視や保護の重要性は高まります。
つまり、AI時代のソフトウェア投資では、単に「SaaS全体を買う」のではなく、AIによって需要が増えるソフトウェアと、AIによって価格決定力が弱まるソフトウェアを分けて考える必要があります。
今後の決算では、売上成長率だけでなく、AI機能が顧客単価、契約更新率、利益率にどのように反映されているかが、より重要な評価軸になります。
明日5月21日(木)夜のウィブル証券オンラインセミナーでは、エヌビディア決算の結果を踏まえ、今後の米国株市場の見方と、リスクを抑えたオプション戦略についてお話しします。
今回のポイントは、AIインフラ相場が続くのか、それとも一度期待値の調整が必要なのかを、エヌビディア決算後の株価反応を見ながら整理することです。あわせて、米中会談後の半導体・レアアース・航空機・農産物への影響、イラン情勢と原油高、今後の米国SaaS企業決算を見据えたなかで、何に注目していくと良いのか、投資家としての思考の整理に役立つ内容をお届けする予定です。
オプション戦略については、「攻めるためのオプション」ではなく、リスクを限定しながら収益機会を狙う保守的なスプレッド取引を中心に解説します。
これまで本コラムやセミナーでご紹介してきた、ゴールドマン・サックス(GS)やエヌビディア(NVDA)を活用したスプレッド取引のシミュレーションは、いずれも大きな調整を行う必要がないまま満期日を迎えました。これは、最大損失をあらかじめ把握し、損益の範囲を設計しておくスプレッド取引の有効性を示す一例だと考えています。
もちろん、過去のシミュレーションがうまくいったからといって、今後も同じ結果になるとは限りません。特にエヌビディアのような市場の注目度が極めて高い銘柄では、一般的な決算プレーとは異なる考え方が必要になる場合もあります。
重要なのは、決算後に株価、ボラティリティ、オプション価格がどう変化したかを確認し、無理のないリスク量で戦略を組み立てることです。
たとえば、十分な株価調整が入った場合にはブル・プット・スプレッド、逆に過度に上昇した場合にはベア・コール・スプレッド、一定のレンジを想定する場合にはアイアン・コンドルなど、局面に応じた使い分けが考えられます。
現在の米国株市場において、AIインフラへの投資は続いており、企業のAI活用も本番運用へ進んでいます。一方で、長期金利の上昇、原油高、イラン情勢、米中関係、財政懸念など、株式市場の上値を抑える材料も増えています。
したがって、ここからの投資では、単にAI関連株を買うだけでは不十分になりつつあります。AI投資を実際に収益へ変えられる企業を選ぶこと。そして、株価が高値圏にあるときほど、オプションを活用して、価格、時間、リスク量を設計することが重要です。
それでは、良い投資を!
志村暢彦