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Weekly TSLAロングストラドル~デルタヘッジを行う意味

守屋史章(オプショントレード普及協会)

なぜオプションか、という問いに対する一つの答えとして、オプションには、株価が上がるか下がるかを予想しない取引方法がある、というものがある。

株式取引では、株価が上がるか下がるかを当てないといけない(=方向性リスクをとるしかない)。一方、オプション取引には、株価が上がるか下がるかではなく、株価が動くか動かないか(=株価変動率=ボラティリティ)を予想するというリスクの取り方がある、ということだ。

コールオプションとプットオプションの両方を買う、というロングストラドルはまさに、方向性を問わず、スタート時の支払額を超える株価変動を期待して取引する戦略だ。

【図表1】テスラ2025/4/11満期C230+P230ロングストラドル損益図(4/7 10:00ET組成)

‌出所:https://marketchameleon.com/Overview/TSLA/OptionChain/

図表1を見てみよう。テスラ株(シンボル=TSLA)の権利行使価格230米ドル(以下「ドル」と表記)のコールオプション(14.75ドル)とプットオプション(13.95ドル)の両方を買ったロングストラドルの損益図である。総額28.70ドルを支払っているから、権利行使価格230ドルから上下28.70ドル以上動けば買い方は利益になる(損益分岐点は、上は258.70ドル、下は201.30ドル)。

つまり買い方は、上下28.70ドル動かない場合には損失になるというリスクをとることで、株価が28.70ドルを超えて動いたときにリワードを得られる、というわけだ。結局は、この「相場が動く」という予想が当たらないといけないわけで、株式投資における、上がるか下がるかの予想が当たらないと利益にならないということと同じではある。

ただ、株式しか手段がない場合には、株価が上がるか下がるかというリスクしかとれないのに対し、オプションを利用することで、動くか動かないかというリスクの取り方もできるようになるという意味でもオプションの存在意義があると言えよう。

例えば決算発表などのような場面では、ポジティブな材料が出るか、ネガティブな材料が出るかは誰にもわからないが、どちらにしても、材料がでれば上か下のどちらかには動く、という予想があるとき、株式しか手段が無ければ、手出し無用であろう。しかし、オプションを使えば、このような場面でも戦うことができるのだ。

では、はたしてロングストラドル戦略は勝てるのか?ここに興味深いデータがあるので紹介しよう。テスラ株のロングストラドルを毎週月曜日の10:00a.m.(米国東部時間=日本時間11:00p.m.)に組成し、金曜日の引けで決済したらどうなるか、だ。

【図表2】テスラで行った週間ロングストラドル結果(26週)

出所:marketchameleonのデータより筆者作成

「デルタヘッジ無し」とは、組成時点の株価水準の権利行使価格のコールオプションとプットオプションを買うロングストラドルのポジションを組成した後、金曜日の引け(満期)までほったらかしのポジションである。一方、「毎日引けにデルタヘッジ」とは、引けの時点のポジションデルタを±0にするべく原資産を売買するというものだ。

「デルタヘッジ無し」のロングストラドルは散々な結果だ(4,721ドルの損失)。この26週間においては、オプションは売った方が良かったということになる。大きく勝つときは6,000ドルを超えるような利益も出ているが(2024/11/8満期週)、負けるときも大きいし、負けがそもそも多い。

一方「毎日引けにデルタヘッジ」の方は、大きくは勝っていないが、「デルタヘッジ無し」が負けているときも、こちらは勝っている場合が多いことがわかるだろう。つまり、「毎日引けにデルタヘッジ」を行うことで、損益の出方がマイルドになり、結果、大きくは勝てないが、負けにくくなっているのである。

さてここでデルタヘッジについて説明しよう。

‌まずはデルタの意味から。デルタとは、株価が動いたら、オプション価格がいくら変化するかを表す指標だ。あるコールオプションのデルタが+0.3ならば、株価が10ドル上昇すると、そのコールオプション価格は株価変動の0.3倍(30%)、つまり3ドル値上がりすることを意味する。デルタが-0.2のプットオプションであれば、株価が10ドル上昇すれば、+10×(-0.2)=-2ドル値下がりするということだ。デルタは株価変動リスクを表していると言える。

ところで、オプションは1枚あたり100株相当を取引することから、設例のコールオプションは3ドル×100=300ドル値上がりすることになるが、これは見方を変えれば、株式30株が10ドル上昇した場合の利益と一致する。つまり、デルタ+0.3は、原資産の数量換算で100株×0.3(30%)=30株相当を保有している状態と考えることもできる。

このことから、デルタは、株として保有している場合のその数量を表しているということもできる(このことから、米国株オプションの世界では、デルタ=+0.3をデルタ30とよぶ場合もある)。デルタが+0.5ならば、50枚の株を持っているというわけだ(デルタ50)。

ロングストラドルはコールオプションとプットオプションを買うポジションだが、オプションの世界では、このデルタを合算してよいことになっている。つまりデルタ=+0.5のコールオプションとデルタ=-0.5のプットオプションを買えば、デルタは+0.5+(‐0.5)=0となる。ロングストラドルのポジションを組成した時点では、株価の変動リスクを取っていないわけだ(だから上がっても下がってもよいということになる)。

ところが、株価が上昇すると、+0.5だったコールオプションのデルタが、+0.6、+0.7・・・と大きくなっていく(インザマネーで満期を迎えたら100株買い=+1.0ということになるので株価の上昇で+1.0に近づいていく)。一方、プットオプションの方は、-0.5だったデルタが、-0.4、-0.3・・・とその絶対値が小さくなっていく(100株売る=-1.0になる可能性が低下していく)。

そうすると、株価の上昇で、このロングストラドルの合計デルタは当初±0だったものが、コールオプションのデルタが大きくなり、プットオプションのデルタの絶対値は小さくなるので、合計デルタは、+0.1、+0.2、+0.3と変化してしまう。株価の上昇でロングストラドルの合計デルタが例えば+0.3になったということは、先に説明したように株式を30枚ロングしている状態になったということだ。つまり方向性リスクを取らないはずが、いつの間にか30枚ロングという方向性リスクをとってしまっているのである。

「デルタヘッジ無し」のロングストラドルは、相場が動いたとき、上記のようにデルタが生まれているため、方向性リスクをとっている可能性がある。例えば良い材料がでて、相場が上昇した場合には、先に説明したようにロングストラドルではデルタがプラスに振れてしまうが、ここから株価が下落したらどうなるか。

下落しても自動的にデルタは調整される(自動的に小さくなっていく)ので方向性リスクはだんだんと無くなっていくのだが、元の位置に戻ればタイムディケイの分は損失が発生する。一旦相場が動いたときに含み益があったとしても、元の位置に戻れば、その含み益は絵に描いた餅となってしまう。

そこで、毎日、方向性リスクを0にするのが「毎日引けにデルタヘッジ」だ。上記の例でいえば、30枚のロングに傾いているのだから、株を30枚売ればよいということになる。毎日、このように株式を売買して、方向性リスクを消すのである。そうすれば、この後相場が下落しても新しい値動きとみなすことができる。

タイムディケイの目減り分を株30枚の売りでカバーできる可能性があるのだ(なおウィブル証券では株の空売りはできないが、最初から株式100株とプットオプション2枚買いというポジションを作っておけば実現可能だ=具体的な取り組み事例は次のコラムで解説する)。

そうすることで、図表2のように、損益がマイルドになり、大きく負けないことが実現する可能性がある。もっとも、デルタヘッジをすることで、上記事例で更なる上昇があった場合には、30枚の売りが邪魔をすることになる。翌日も大きく上がった場合には再度デルタがプラスに振れるので、また株式を売る必要が出てくる。

さらに上昇したら、この株売りがまた邪魔をすることになる。このようにデルタヘッジを行った場合は、一方方向の株価の動きには弱い。だから「デルタヘッジ無し」が大きく勝っているときに、むしろ負けている場合もある(図表2の4/25満期参照)。

決算週は、大きく動く可能性もあるが、仮に全く動かないような場合には、デルタヘッジが入らず、結局「毎日引けにデルタヘッジ」でも大きく負けてしまう可能性もある。再度、図表2の「Earnings」の週を見てみよう。4/25満期の方は、株価が大きく動いたため、「デルタヘッジ無し」は大きな利益となっているが「毎日引けにデルタヘッジ」は小さく負けてしまっている。

また、1/31満期の週は、決算前にIVが高まっていたこともあり、オプションの支払額が大きかった割に、株価がほとんど動かなかったため、いずれも大きな損失になっている。株価が動かなければ、デルタヘッジを行うほどデルタが生じない可能性があり、そうなるとデルタヘッジも無力だ。だから「毎日引けにデルタヘッジ」の方も同じく大きく負けてしまったのだ。このように決算週は動いてもデルタヘッジを行うことで大きく利益を取れないし、動かなかったら同じように大きく負ける可能性があるので、決算週はストラドルを行わないというルールで再度データをみてみよう。

【図表3】テスラロングストラドル結果(26週)-決算週を除く

出所:marketchameleonのデータより筆者作成

そうするとだいぶ結果が違ってくる。もちろん、これは直近26週間の結果にすぎず、いつもこのように利益になると言えるわけではないが、デルタヘッジを行い、毎日方向性リスクを消していくことで、損益がマイルドになるとはいえそうだし、たまに大きく勝つよりも、基本的に大きく負けないことが大切だということがわかるのではないだろうか。

本コラムはここまでとし、実際のデルタヘッジの例(最初から株式100株とプットオプション2枚買いというポジションによる具体的な取り組み事例)は次のコラムで解説したい。

株式会社M&F Asset Architect

(オプショントレード普及協会)

代表取締役 守屋史章

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