2025年4月の関税ショック。エヌビディア株は一時100ドルを割った。ここは買い場ではないか。しかし「落ちてくるナイフはつかむな」との相場格言もある。その時点ではここが底かどうかなどわからないのだから、やはり買い向かうのは危険だろう。
【図表1】エヌビディア株 日足チャート

出所:TradingView
まさにこのようなときがコールオプションの出番である。
ここは十分に低いと思うが、まだ下がるかもしれないから買い向かうのは怖い。買い向かいたくても資金が足りない。そんなとき、コールオプションを使うわけだ。
コールオプションとは、株を買う権利である。いくらかのお金(オプション料=権利金・手付金)を払って、その株をいくらいくら(=「権利行使価格」という)で買うという予約をする(手付けのようなもの)。
その後株価が上がり、権利行使価格を上回っていれば、買う権利を行使し、株を買う代金(権利行使価格×100株)を支払って現在の株価よりも低い約束の価格で株を買えることになる。結局さらに株価が値下がりし、その権利行使価格で株を買いたくなければ、権利を放棄すればよい(何もしない=オプションの権利は消滅)。
株自体ではなく、株を買う「権利」だから、そのとき支払うお金(権利金)は株の代金よりは小さいはずである(株を買う代金と同じだったら株を買えば良いのだから)。株価が下がっても、この最初に支払った権利金(オプション料)を放棄すれば、株を買う必要はない。
つまり最大の損失額は、当初に支払った権利金(オプション料)ということになる。確かに株式投資において損切りを設定しても、損失額を限定することはできるが、損切りラインに到達したらそこで株を手放すことになるため、その後上昇に転じても、その上昇益には与れない。
しかし、コールオプションの場合は、一時的に値下がりしても、その後、株価が回復すれば、そのコールオプションは満期までは有効であるから、息を吹き返す可能性がある。損切りとは異なり、上昇益に与れる可能性があるのである。
つまり、小資金で取り組めて、最大損失額が明確、損切りではないから一旦株価が下がっても、その後の上昇にしっかりとついていけるということだ。
だから、コールオプションであれば、落ちてくるナイフをつかんで、そのままさらに下げても痛手は小さく、逆に、底打ちした場合には、上昇に乗れるのである。
具体的に見てみよう。2025年4月8日の引け間際、エヌビディアの株価は96.24米ドル(以下「ドル」と記載)だった。ここで株を100株買うならば(オプションは1枚あたり100株相当を取引するので比較のためにここでは100株買うことにする)9,624ドルの投資である。
株価がさらに下げて、もしかしたら半分になるかもしれないという恐怖の中、買うことになる。まさに「落ちてくるナイフをつかむ」取引である(50ドルまで値下がりすれば-4,624ドル)。
【図表2】エヌビディア100株の損益図

出所:marketchameleon
そこでコールオプションを買うことを考えるわけだが、このショックがどれぐらいの期間で回復するか、どこまで株価が回復するかを検討する必要がある、ここでは、ショックからの回復期間を3ヶ月程度と想定し、7月18日満期のオプションを買うことにしよう。
【図表3】 NVDA7月18日満期オプション価格表

出所:marketchameleon
続いて、権利行使価格をどこにするかだ。この後の株価の上昇の予想と、支払う金額(最大損失額)のバランスを考えて権利行使価格を選択する。
2月中旬の戻り水準である140ドル程度をターゲットとしよう。リスク許容度としては、最大損失額50,000円程度までとする。そうするとC125@3.2ドル(×100=320ドル=46,400円=1ドル145円)あたりが対象になってくる。
株価が140ドルで着地すれば、1,500ドルの経済効果を得ることができる。すなわちC125を権利行使すれば、現在価格140ドルの株を125ドルで買えるわけなので、株を買った時点で1,500ドルの含み益が出ていることになるからである(もっとも、純利益はC125を購入するときに支払った320ドルを引いた1,180ドルである)。
ここで権利行使したければ125ドルで100株買う代金12,500ドルを用意しなければならない。125ドルで100株買うのだから当然だ。とはいうものの、12,500ドルを用意できなかったらどうなるのだろうか。
心配はいらない。このC125自体を売ればよい。いくらで売れるのか、であるが、基本はその時点の経済的価値で売れるので心配は不要だ。つまり、現在の市場価格140ドルの株を125ドルで買えるのだから、C125を持っている人は1,500ドルの経済的価値があり、そうならばC125は1,500ドルで売れるはずである。
C125を反対売買するつもりがあるなら、12,500ドルを用意する必要はない(権利行使して株を買うわけではないから)。状況としては、320ドルで買ったC125が1,500ドルに値上がりしている状態なので、反対売買すれば(買い戻せば)、1,500ドルを受け取れる。つまり、1,180ドルのリターン(1,500-320=1,180ドル=369%=3.7倍)になるということだ。
これを示すのが以下の損益図だ。最大損失は横軸一定の320ドル。株価が上がれば上がるほど利益が増える(C125の価値が上がる)。図表2と比較してほしい。図表2の株価の損益は株価が下がればどんどん損失が増えていく。一方コールオプションの買い(図表4)であれば、投資資金以上に損をすることはない。左方向にいくら動いても(株価が下落しても)損失は一定である(当初支払ったお金を放棄しておしまい)。
【図表4】 NVDA7月18日満期C125損益図

出所:marketchameleon
このように、コールオプションを使えば、ナイフが落ちてくるタイミングで株を100株買うのは怖くても、わずか300ドル程度の損失を引き受けることで、そのタイミングからの上昇を低資金で取りに行けるのである。これがコールオプションの買いの魅力だ(このC125を買うのに必要な資金はわずか320ドル)。
さて、その後どうなったか。4/21に一旦下げたものの、その後上昇に転じた。株価は約160ドル近くまで上昇。
【図表5】 NVDA4/8~7/3株価チャート (96.24ドル⇒159.31ドル)

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【図表6】 NVDA 7月18日限C125 4/8~7/3価格チャート(@3.2⇒@34.65ドル)

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3.2ドルで買ったC125が、株価の上昇でなんと34.65ドルまで上昇!(図表6)。いわゆるテンバガーである。320ドルの投資で3,145ドルの利益!
もちろんすべてのお金をC125(@3.2ドル)にかけるわけにはいかないだろう。125ドル以下で満期を迎えたらすべての資金を失うことになるからだ。ただ、打診的に少しずつ買いを入れる代わりに、コールオプションを少量買うのであれば、仮に株価の上昇が弱くても、その手付金を放棄すればよく、予想通り株価が上がったならば、コールオプションの権利を行使して株を取得するか、コールオプションを反対売買(売却)すればよい。
このときC125を権利行使するならば159.31ドルの株を125ドルで買えることになる。もちろん125ドルで100株買うために12,500ドルを用意する必要がある。権利行使により、いきなり3,431ドルの含み益ということになる。なお、権利行使は満期に行う方が、経済合理性がある。株を買う代金12,500ドルを別で運用できるからだ。
もし12,500ドルを用意するつもりがない、あるいは、このあたりで一旦利益を確定させたければC125を売却すればよい。このときC125が、図表6にあるように3,465ドル(中値)で売却できれば3,145ドルの利益が確定するということである。
このように、コールオプションを買えば少額で損切り設定不要で打診買いができるのである。急落時、「落ちてくるナイフをつかむ」取引もコールオプション買いならばできそうだ※。
株式会社M&F Asset Architect
(オプショントレード普及協会)
代表取締役 守屋史章
【注意】
※オプションの価格は株価がどれぐらい動くか(ボラティリティ)の市場参加者の見積もりにより決まる。このボラティリティの見積りが大きくなればオプション料は上がるし、見積もりが小さくなればオプション料は下がる。ということは、現在のオプション料を見れば、市場参加者のボラティリティの見積もりがどの程度かを推定できるはずである。このような発想から、現在のオプション料が妥当となるボラティリティを逆算して市場参加者の見積りを推定するようになった。このようにしてオプション価格から逆算されたボラティリティをインプライドボラティリティ(IV)という。急落時はオプション全体が割高になる場合が多いが、これは市場参加者がボラティリティを大きく見積もるようになるからである。ということは、本コラムのようなショックによる急落時はコールオプションも割高である可能性が高い。コールオプションの買いが成功するためには、オプション価格に織り込まれているボラティリティを超える株価の上昇が必要になるのである。本事例では株価が96.24ドルのときに、C125が3.2ドルで取引されていた。つまりC125の損益分岐点は128.2ドルであり、株価が7月18日までに128.2ドルを超える株価変動(ボラティリティ)が必要だということだ。