本稿では、すでに多くの方に読んでいただいた拙稿「1年間ほったらかし低ボラティリティ配当王・配当貴族のカバードコール」戦略 に関し、1年ではなく1ヶ月ペースでできないか、というご質問をうけて、2025年5月1日にエントリーし、月末にイグジットした場合の結果を示すものである。
図表1は配当貴族指数に採用されている銘柄のうち過去1年間のHVの低いもののうち、オプション出来高が1日平均10,000枚程度以上ある銘柄である。これらの銘柄を100株購入し、株価と同じ水準(ATM=アットザマネー)のコールを売るカバードコール戦略を1ヶ月走らせてみた。
【図表1】オプションの流動性が比較的ある配当貴族指数採用低ボラティリティ銘柄
出所:marketchameleon
※KO=コカ・コーラ社、PG=P&G社、CL=コルゲート・パルモリーブ社、JNJ=ジョンソンアンドジョンソン社、WMT=ウォルマート社、PEP=ペプシコ社、MCD=マクドナルド社、IBM=IBM社
まずはコカ・コーラ株(KO)から見ていこう。図表2は2025年5月1日引け間際における、5月30日満期のオプション価格表だ。
【図表2】コカ・コーラ株オプション価格表(2025年5月1日現在5月30日満期)
出所:marketchameleon
株価71.30米ドル(以下、「ドル」と表記)で100株購入し、C71を1.82ドルで売る(実際には100倍の182ドルを受け取る)。C70を売ることにより、株価が70ドルを超えていれば株を70ドルで売却しなければならない。その義務負担に見合うだけの金額が182ドルだということだ。
なお、ウィブル証券では、この182ドルを株式購入代金に充当できるので、発注時に必要な資金は6,948ドル(7,130-182)で足りる。満期に株価が71ドルを超えていれば、71ドルで売却することになるから、口座には7,100ドルが入金されることになり、152ドル(7,100-6,948)の利益を得られることになる(71.3ドルで購入した株を71ドルで売却することになるから0.3ドル=100株で30ドルのキャピタルロスがでている)。
株価が71ドルを割っていた場合には、購入価格71.3ドルの100株が残る(実際には69.48ドルで買ったので、この差額1.82ドルの経済効果があったことになる=C71売りから182ドルのキャッシュフローを得たことになる)。
【図表3】コカ・コーラ株 日足チャート
出所:TradingView
では結果を見てみよう。満期である5月30日の終値は72.1ドルだった。売っているコールの権利行使価格71ドルを上回って着地しているから、71ドルで株を売却することになる。想定通り、152ドルのリターン、1ヶ月約2.2%だ(152ドル÷必要資金6,948ドル≒2.2%)。
同様に、P&G株(PG)も見てみよう。以下は5月1日現在の満期5月30日のオプション価格表だ。
【図表4】PGオプション価格表(2025年5月1日現在5月30日満期)
出所:marketchameleon
株価159.96ドルで100株購入し、C160を3.75ドルで売る(実際には100倍の375ドルを受け取る)。C160を売ることにより、株価が160ドルを超えていれば株を160ドルで売却しなければならない。その義務負担料は375ドル。既述のように、ウィブル証券では、この375ドルを株式購入代金に充当できるので、発注時に必要な資金は15,621ドル(15,996-375)で足りる。
満期に株価が160ドルを超えていれば、160ドルで売却することになるから、口座には16,000ドルが入金されることになり、379ドル(16,000-15,621)の利益を得られることになる(159.96ドルで購入した株を160ドルで売却することになるから0.04ドル=100株で4ドルのキャピタルゲインがでている)。株価が160ドルを割っていた場合には、購入価格159.96ドルの100株が残る(実際には156.21ドルで買ったので、この差額3.75ドルの経済効果があったことになる=C160売りから375ドルのキャッシュフローを得たことになる)。
【図表5】P&G 日足チャート
出所:TradingView
結果を見てみよう。満期である5月30日の終値は169.89ドルだった。売っているコールの権利行使価格160ドルを上回って着地しているから、160ドルで株を売却することになる。想定通り、379ドル、1ヶ月約2.4%リターンだ(379÷必要資金15,621≒2.4%)
もう一例、この期間に配当があった銘柄をみてみよう。ジョンソンアンドジョンソン株(JNJ)だ。まずは5月1日時点のオプション価格表から。
【図表6】JNJ オプション価格表(2025年5月1日現在5月30日満期)
出所:marketchameleon
株価154.42ドルで100株購入し、C155を3.10ドルで売る(実際には100倍の310ドルを受け取る)。C155を売ることにより、株価が155ドルを超えていれば株を155ドルで売却しなければならない。その義務負担料は310ドル。この310ドルを株式購入代金に充当して、発注時に必要な資金は15,132ドル(15,442-310)。
満期に株価が155ドルを超えていれば、155ドルで売却することになるから、口座には15,500ドルが入金されることになり、368ドル(15,500-15,132)の利益を得られることになる(154.42ドルで購入した株を155ドルで売却することになるから0.58ドル=100株で58ドルのキャピタルゲインがでている)。株価が155ドルを割っていた場合には、購入価格154.42ドルの100株が残る(実際には151.32ドルで買ったので、この差額3.10ドルの経済効果があったことになる=C155売りから310ドルのキャッシュフローを得たことになる)。
なお、ジョンソンアンドジョンソン株は5月27日にex-dateを迎える。この日の前日に株を持っていれば配当ももらえる。ただしC155に時間的価値が残っていない場合(株価が155ドルを超えて大きく上昇している場合)、C155の買い手から権利行使を受ける可能性が高い(コールを持っていても配当はもらえないため、C155に時間的価値がなくなっていれば権利行使して株を購入する経済合理性がある)。
【図表7】ジョンソンアンドジョンソン 日足チャート
出所:TradingView
結果を見てみよう。満期である5月30日の終値は155.21ドルだった。売っているコールの権利行使価格155ドルをぎりぎり上回って着地。155ドルで株を売却すし、想定通り368ドルのリターンだ。これに加えて配当130ドル(1株あたり1.3ドル×100株)も得られた。Ex-dateが近いタイミングで株価は155ドルを超えていないから権利行使を受ける可能性はほとんどなかったといえる。合計498ドル、1ヶ月で約3.3%のリターンだ(498ドル÷必要資金15,132ドル≒3.3%)。
同様に、他の神セブン銘柄(CL:コルゲート・パルモリーブ社、WMT:ウォルマート社、MCD:マクドナルド社、IBM:IBM社)でもカバードコールを行った結果を以下に示す。いずれも、5月1日引け間際に100株買って、ATMコールを1枚売るカバードコールの満期5月30日時点の結果である。
【図表8】配当王・配当貴族低ボラティリティ神セブン銘柄カバードコール5月成績
コールオプションを売ることで得られたキャッシュフローと配当(※)を合わせて、3191.5ドル、投資資金(109,893ドル)に対して約2.9%のリターンだ。もちろん、常にこのようにうまくいくわけではない。株価が下がってしまえば、カバードコール売りで得たプレミアムでは株の含み損には全く足しにならないこともあり得る。その場合、次に売るコールにほとんど値段がついていない、ということもあり得る。
逆に、株価が大きく上昇したとしても、コールを売っている(その権利行使価格で売却する義務を負担しているので、上昇益をとれない。しかし、あまり株価は上がらない代わりに下がりにくく、下がっても買われる銘柄で、キャッシュフロー重視の投資戦略を持つ、というのも投資の幅を広げることになるのではないだろうか。
※なおIBMに関してはex-date5/9の前日時点までに相当程度株価が上昇していたため、権利行使された可能性があるかを検討しておく。5/8引け間際の株価は254.24ドルだった。カバードコールC240の価格は約15.25ドル、これは14.24ドルのインザマネーである。
もっとも、この時点の時間的価値はまだ1ドル程度(×100)残っていたから、権利行使された可能性は低い(配当168ドルを得るためにC240を権利行使し、時間的価値100ドルを捨てるぐらいならば、C240を権利行使するのではなく、市場で売却して100ドル分の時間的価値を回収し、市場で株を買った方が、経済合理性がある)。ウォルマート社の配当もex-date前の株価は売っているコール(C97)の権利行使価格付近にあり、時間的価値も3ドル以上残っていたため権利行使される可能性は低かった。
株式会社M&F Asset Architect
(オプショントレード普及協会)
代表取締役 守屋史章