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エヌビディア決算に向けた「ターバイコール戦略」(守屋史章)

エヌビディアが120ドルまで下がってきたら買いたい! でも上昇にもついていきたい。

エヌビディア社(ティッカー:NVDA)の買い場を逃している投資家も多いことと思う。まもなく決算を迎える(2024年11月20日AMC)が、さすがにここから買うのは少し勇気がいるかもしれない。では、これが120ドルあたりまで下げてきたらどうだろうか(2024年11月15日現在、株価146~147米ドル。以下、「米ドル」は単に「ドル」と記す)。

もし120ドルで買えるなら100株買ってもよいというのであれば、普通は次のようにするだろう。すなわち、1株120ドルの株を100株買うために、口座に12,000ドル用意して120ドルの板に指値をして待つ。当然下がってこなければ株は買えない。買えないのは機会損失だが、決算で大きく上がるかもしれないとはいえ、14,600ドルを用意して今100株買うのも怖い。

そこで、前回のコラムで紹介した小資金のコール買い戦略となるわけだが、コールオプションを買うにもコストがかかる。本稿は、このコール買いをゼロコスト(手数料等は考慮していない)で買う方法を紹介するものである。

さて現在値147ドルから約20%も下の120ドルでなら買ってもよいというのであれば、指値する代わりに「120ドルまで下げたら必ず120ドルで買うという約束」をするのはどうだろうか。この「約束」をしてなんと236ドル(2.36×100株相当)をもらうことができるのだ(2024年11月14日引け時点の価格 2025年1月17日まで拘束)。

そして、この資金を使って同じ満期のC186(=NVDA100株を186ドルで買える予約権)を232ドル(2.32×100株相当)で買うわけである(2024年11月14日引け時点の価格 2025年1月17日までの権利)。このC186の買いコストはゼロである。これはどういうことなのだろうか。

まず、C186についてはすでにコラム①で説明しているように、株価がいくら上がっていても186ドルで買える権利であるから、株価が186ドルよりも高くなれば経済的価値があることになる。例えば200ドルまで上がったとしよう。これを186ドルで買えるわけだから、この権利を行使すれば証券口座は186ドルで100株買った株が現在200ドルになった状態になる。

つまり株を取得した瞬間に1,400ドルの含み益がある状態からスタートすることになるわけだ(18,600ドルで株を100株購入し、現在株式資産が20,000ドルになっているということ)。また、この186ドルで買える権利(C186)を行使せずに、このC186自体をオプション市場で転売することも可能だ。

200ドルの株を186ドルで買える権利には14ドルの価値があるから、100株相当で1,400ドル程度で転売できる可能性がある。このような権利がタダで手に入るはずもないため、現時点でもいくらかの値段がついている。

232ドル(2.32×100株相当)というのがそれだ。株価が上がればこのC186の価値も上がっていく。このC186のキャピタルゲインを得るという方法もできるということである。満期においては、権利行使価格180ドルにC186買いコスト2.32を加えた188.32ドルが損益分岐点ということになる。

【図表1】C186損益図

出所:Marketchameleon(https://marketchameleon.com/Overview/NVDA/OptionChain/)

ではゼロコストでC186を買っている場合はどうかといえば、これは最初から損益分岐点を超えていることになる。つまり株価が上がらなくても損にはならないということだ。下掲図表2のグラフ中の赤部分(損失)のリスクは株を買った場合と同じである。

もし下げて120ドルまで下りてくれば120ドルで株を買えるのでよしとしよう。決算も好調でトランプラリーに乗って年末までに200ドルを超える展開になれば2,000ドル近い利益が出る可能性がある。株価が120ドル~現在価格付近で着地すればトントン(損益±0)といったところだ。

では、なぜ指値する代わりに「120ドルまで下げたら必ず120ドルで買うという約束」をすれば236ドル(2024年11月14日引け時点の価格 2025年1月17日まで拘束)をもらえるのだろうか。

これは種明かしをすれば、プットオプションを利用することで実現するということなので、ここでプットオプション制度について整理しよう。プットオプションは、「プット」の語感からして、およそ物を手放すイメージで、しかも相手に無理やり渡すイメージだ。株を相手に無理やり売りつけることである。

つまり株価が下がっても(紙屑になっていても)下がる前の約束の価格で株を相手に引き取らせる(=売りつける)ことができることを意味し、このような約束を「プットオプション契約」という。

プットオプションの権利者(買い手)は、売却価格(「権利行使価格」という)を決めて、株価がいくらであってもその価格で売却できる権利を持つ。逆にプットオプションの義務者(売り手)は、株価が大きく下げて無価値になっていたとしても、約束の価格で株を買わなければならない。

このような権利がタダで手に入るはずもないので、この契約では、プットオプションの権利者(買い手)が義務者(売り手)にいくらかのお金を払う。先の例で236ドル(2.36×100株相当)というのがそれだ。

つまり、120ドルを割り込んだら120ドルで売りたい人がプットオプションの買い手となり、その売りに応えて株がいくらになっていても120ドルで必ず買う義務を負担するのがプットオプションの売り手ということだ。

これを「P120」と書く。なお、この120ドルで売りつける権利はあくまで「権利」なのであって、株価が120ドルを割り込まない状況では「権利」を行使する必要はない、つまり権利は放棄できる。この場合、オプション料は返ってこない(=売り手は返さなくてよい)。

【図表2】プットオプション関係図

例えば、株価が100ドルまで下がったとしよう。P120の権利者(買い手)は市場価格が100ドルであるにもかかわらず、P120の義務者(売り手)に対して120ドルで売ることができるのである。権利を行使すれば、株を相手に120ドルで売却し、口座には12,000ドル(120ドル×100株)が入金される。

株価がいくら下げても12,000ドルの資産を維持することが可能になる。これは保険としての機能と考えられるる。市場価格100ドルの場合、P120には20ドルの経済価値があるのだから、このP120をオプション市場で転売してもよい。これによって2,000ドル(20×100株相当)程度を手にすることができるだろう。この手にした資金で株を買い増ししてもよい。

一方、P120の義務者(売り手)はどうか。権利者の権利行使により市場価格100ドルの株を120ドルで買わないといけない。ただ、もともとエヌビディアの株が120ドルまで下りてきたら買いたいと思っていたのであるから、買うことになっても問題はないはずだ。そもそもP120の義務者として買うのと、指値をして買うことに差があるだろうか。

むしろP120の義務で買う方が、プットの買い手から2.36ドルもらう分、お得に買えることになるのではないか。なお、P120の義務者(売り手)になるには、12,000ドル(120ドル×100株分)をあらかじめ用意する必要があるが、これは120ドルの板に100株の指値するのと同じであり、株を買う代金全額を用意している以上、株価下落のリスクは株を指値して買う場合と変わらない。

このように、自分が買いたい価格のプットオプションを売ることを指値買いという意味で「ターゲットバイイング(略してターバイ)」と呼んでいる。

その権利行使価格で株を買うのに必要な現金を全額用意してプットオプションを売ることから、「Cash Secured Put Writing キャッシュ セキュアド プット ライティング」=現金確保(担保)、「プット売り」とも呼ばれる。

図表3】単なる指値とターゲットバイイング比較

本稿のポイントは、もらったお金で株を少しだけお得に買うのではなく、もらったお金で「C186エヌビディア株を186ドルで100株買える権利)」を買うという点にある。株価が200ドルまで上がれば、この186ドルで100株買う権利を行使して市場価格200ドルの株を186ドルで買うのもよし(買った瞬間に1,400ドルの含み益が出ている状態になる)。

この186ドルで買う権利を使わずに転売して1,400ドルを得るのもよし、である。もし120ドルを割り込むところまできたら、今よりもだいぶ安く株を買えたとして喜べばよい。

【図表4】ターバイコールの損益図(P120売り+C186買い)

出所:Marketchameleon(https://marketchameleon.com/Overview/NVDA/OptionChain/)

なお、株価が下落した場合は、満期までの日数が多く残っていれば、期中においては上記図表4の青破線が示すようにオプションとしては損失が出ることになる。ただ、120ドルを割り込まない状態が続けば、時間の経過により損益は上記直線(満期)のグラフに収斂していく。

また120ドルを割り込んで、例えば100ドル程度まで下落した場合、期中においてはオプションの損益として2,000ドル程度の損失が出ることになる(株を120ドルで100株買って、株価が100ドルまで下落したのとほぼ同じ状態)。

このタイミングで権利行使を受けたら、100ドルの株を120ドルで買うことになるから、2,000ドルの含み損が生じている状態からのスタートとなる。

株式会社M&F Asset Architect(オプショントレード普及協会)代表 守屋史章

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