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脱炭素と経済成長を両立するために「カーボン・クレジット市場」が果たす役割

GXやカーボンニュートラルに向けて重要なファクター

(※本記事は2023年11月16日に「東証マネ部!」で公開された記事の転載です)

最近よく聞かれるキーワードについて深掘りする連載「マネ部的トレンドワード」。カーボンニュートラル編の本記事では、経済産業省に取材し、日本が目指すカーボンニュートラルに向けた方針や、そのための重要施策となる排出量取引制度およびカーボン・クレジット市場の活性化について考える。

カーボンニュートラルや脱炭素社会に向けた取り組みが世界中で進んでいる。日本も同様で、経産省では「GX(グリーントランスフォーメーション)」を提唱し、脱炭素社会に向けたロードマップを策定した。

このロードマップにはGX実現のための施策がいくつか示されており、そのひとつに企業のCO2排出削減をもとにした「排出量取引制度」の本格稼働(2026年度~)が挙げられている。この制度は、企業の脱炭素化を進め、同時に経済活動の停滞も生まない、環境と経済の両輪を回す重要なファクターとなる。

日本が進めるカーボンニュートラルに向けた方針、そしてそのポイントとなる排出量取引制度について、経済産業省 産業技術環境局 環境政策課 環境経済室の内田美玖氏に聞いた。

2050年に向けて、企業のCO2削減に「インセンティブ」を与える

改めてカーボンニュートラルとは、CO2をはじめとした「温室効果ガス」の排出量を全体で実質ゼロにするというもの。排出そのものを完全に無くすことは難しいが、排出した分と同等の温室効果ガスを吸収したり除去したりする形で、トータルゼロになることを指す。

「日本政府は2050年のカーボンニュートラル実現を目指しており、まずは2030年度に、温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目標としています。この指針が示されてからすでに2年以上経ちましたが、日本全体の温室効果ガスの排出量は2013年度から減少傾向にあります」

一方、ここ数年はコロナ禍による経済活動の停滞もあったが、それらがふたたび活発になる中で、温室効果ガスの排出が増える可能性もある。「その状況に対処することがこれから重要になるでしょう」と内田氏は指摘する。

脱炭素を目指すのは大前提だが、あくまでそれは「エネルギーの安定供給」や「日本の経済成長」を維持しながら実現しなければならない。脱炭素のために企業活動を制限し、経済成長が鈍化するのは望ましくない。経産省が提唱するGXの基本理念も、あくまで3つが同時に成り立つことにあり、2023年2月にはその実現に向けた基本方針を取りまとめた。

「基本方針では今後実行する具体策も示しており、そのひとつにカーボンプライシングの導入を挙げています。これは『1トンあたりいくら』といった形で炭素排出に“値付け”をし、排出量に応じて負担がかかる仕組みを段階的に構築していくものです。あらかじめ炭素排出に対する将来の負担を示すことで、先行してGX投資に取り組む事業者にインセンティブを付与するのが目的となります」

カーボンプライシングの大きな考え方は上記の通りだが、その概念をどう社会に落としこむかについては、数種類の形が検討されている。ひとつが「排出量取引制度」だ。排出量取引とは、簡単に言えば企業の温室効果ガス排出量の削減分を売買するものだ。

経産省では、GXやカーボンニュートラルを目指す企業が参画する「GXリーグ」を立ち上げており、すでに560社超が名を連ねている。このGXリーグで、2026年度から企業間の排出量取引を本格稼働する予定だ。

「GXリーグの参画企業は、2025年度・2030年度における削減目標をそれぞれ立てており、その目標をNDC水準(※)以上に削減を達成した企業は“超過分”を他社に売ることが可能となります。反対に、削減目標を達成できなかった企業は、その分を他社から買い取るか、または従来から企業が取引してきたカーボン・クレジットを購入して埋め合わせるか、もしくは達成できなかった理由を対外的に説明することになっています」

※パリ協定において、各国が5年ごとに提出・更新する温室効果ガスの排出削減目標

カーボン・クレジットとは、企業が森林の保護や植林、省エネ機器の導入などによって生まれた温室効果ガスの削減分をクレジットとして発行し、他の企業が購入できるもの。こちらは以前から取引が行われており、購入した企業は、事業・イベントで排出される温室効果ガスをクレジットで埋め合わせたり、国の排出量報告制度においてオフセットするといった形で活用してきた。

まとめると、各社の目標に応じた超過削減分やカーボン・クレジットを企業間で売買しようというのが、GXリーグにおける排出量取引制度だ。目標を上回った削減分や環境活動で企業が発行したクレジットは、それそのものがGXに取り組む企業のインセンティブ(利益)となる。そうしてカーボンニュートラルが促進されるという考えだ。

取引の活発化に必要な「プラットフォーマー」と「マーケットメイカー」

排出量取引制度は2026年度からの本格稼働を見据えるが、こういった取引が活発に、しかも適切な価格で行われるには、証券取引所のようなプラットフォームを作り、その上で売買する企業、いわば市場のプレーヤーを増やしていくことが大切になるという。

「たとえばこれまでに行われてきたカーボン・クレジット取引は、取引所がなく、多くが企業同士の相対取引でした。そのため、過去にいくらで取引されたのか、どれほどの企業が売買を望んでいるのかといった情報が外に出にくく、価格相場がわかりづらかったのです。それは新規で参加する際のハードルになっていたと言えます」

このような考えから、2022年9月~2023年1月には、経産省から委託を受けた東証がカーボン・クレジットの取引所を運営する実証実験を行った。

経産省ではこういった取り組みも含め、2026年度まではカーボン・クレジットを取引するプラットフォームを活用するプレーヤーを増やし、取引が活発化していく期間にしたいと考えている。

すでに取引所を開設する動きは起きており、東証でも上記の実証実験で得た知見を活かして、2023年10月11日にカーボン・クレジット市場を開設。日本におけるカーボン・クレジットのプラットフォームのひとつとして、今後取引を活性化させていく。

さらに内田氏は、市場での売買が活発化するために「マーケットメイカーの導入」もポイントになると口にする。

「マーケットメイカーとは、立ち上げたばかりでまだプレーヤーの少ない市場に対して、適正な取引の実現を支える存在です。初期の市場は、参加者が少ないために、クレジットを買いたいと思ってもそのタイミングで売り手がいなかったり、相場から離れた価格で売られているものを買ってしまったりというリスクも考えられるでしょう。そこで、マーケットメイカーが売り買いの注文をつねに一定数入れて売買の流動性を上げ、また適正価格から逸脱しない健全な市場を構築していくのです」

マーケットメイカーは株式市場では以前から定着しており、証券会社がその役割を担うことも多い。だからこそ「カーボン・クレジット市場でも、知見を持った証券会社をはじめとする金融機関等がマーケットメイカーに加わることを期待しています」と口にする。

先述した通り、カーボンニュートラルやGXで重要なのは、安定的なエネルギー供給と経済成長を維持しながら、脱炭素を進めることだ。その意味で、排出量取引やカーボン・クレジットは重要になる。

なぜなら、仮にいまは劇的な排出量削減が難しい企業でも、いったんは取引やクレジットによって排出量削減のラインをクリアしながら、事業活動はいままで通り継続することができる。その間に、根本的な脱炭素の方法や技術を構築し、いずれ本当の意味での解決を進めていく道筋が取れるからだ。

カーボンニュートラルの実現に向けて重要な排出量取引やカーボン・クレジット市場。これからどのように取引が活性化していくのか、どんな市場が形成されるのか、その動向に注目したい。

(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

※記事の内容は2023年11月現在の情報です

著者/ライター

有井 太郎

ビジネストレンドや経済・金融系の記事を中心に、さまざまな媒体に寄稿している。企業のオウンドメディアやブランディング記事も多い。読者の抱える疑問に手が届く、地に足のついた記事を目指す。

提供元「東証マネ部!」

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