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私たちは人型をあきらめない。日本の“パイオニア”川崎重工が見据えるロボティクスの未来

根底にあるのは人手不足への眼差し

(※本記事は2023年8月11日に「東証マネ部!」で公開された記事の転載です)‌

市場で注目を浴びているトレンドを深掘りする連載「マネ部的トレンドワード」。ロボティクス・ドローン編5回目の本記事では、川崎重工業(以下、川崎重工)のロボット事業を取り上げる。

バイクやジェット機、船舶など、さまざまな領域で存在感を見せる川崎重工だが、「日本初のロボットメーカー」という一面も持っている。1968年、世界初の産業用ロボット「ユニメート」を開発した米国・ユニメーション社との技術提携を皮切りに、翌年には国産初の産業用ロボットを開発。以来、自動車や半導体の製造、医療、物流など、あらゆる分野に活用されている。

ロボットといえば昔から“人型”のアンドロイドやヒューマノイドなど、人間同様にさまざまなことができる「複合型ロボット」が描かれてきたが、いま現実的に使われているのは機能を絞った「単機能ロボット」だ。しかし、同社は人型の夢をあきらめていない。その裏にはロボットメーカーとして見据える未来像があるという。

詳しい話について、川崎重工 精密機械・ロボットカンパニー ロボットディビジョン グローバル戦略部営業企画課課長の牧田幹彦氏に聞いた。

世界No.1シェアを保持する主力製品は、一朝一夕では作れない

多様な事業を展開する川崎重工において、「ロボット事業」の売上は全体の9%と決して大きな割合を担っているわけではない。しかし上述の通り、50年以上続く同社の基盤ビジネスであることは事実だ。しかも「2022年には初めて売上1000億円を突破し、いまも伸びている事業です」と牧田氏は説明する

同社の産業用ロボットは、まず自動車製造の現場で普及した。1970年以降、自動車が爆発的に増える中、溶接や塗装などの重労働かつ単調な作業を自動化するロボットが当てはまった。

現在の主力製品となっているのは、半導体の基板である「ウエハー」の搬送ロボット。同社の試算では、2020年時点で世界シェアNo.1の56%を占めているという。

「半導体製造装置の内部に組み込まれており、微細なチリや埃さえ許されないクリーンな環境での稼働が求められます。また、振動や摩耗も最小限に抑える必要があり、内部で駆動するギア(歯車)も複数の歯を重ねた特殊なタイプを開発。ヘリコプターや艦艇など、川崎重工の他の事業の技術・知見が活用されています」

近年、スマホや自動車のEV化など、半導体需要の高まりによって市場規模は拡大し続けている。今後ますます製品ニーズが高まることは間違いないだろう。

これからのニーズという意味では、半導体に限らず「産業用ロボット全体の市場も伸びていく」と牧田氏。最たる理由は、先進国に訪れる少子高齢化。「特に日本は製造業、卸売・小売、医療・福祉、サービスといった領域の人手不足が深刻になるという予測もあります」。ここにロボットが活用されるのは自然な流れだ。

「特に日本はまだロボットを導入する余白が大きいと言えるでしょう。『ロボット密度』と呼ばれる、製造業従業員1万人あたりのロボット台数を見ると、韓国は1万人あたり1000台、シンガポールも670台あります。日本は399台となっており、伸びる領域は残っているといえます」

ロボット市場が伸びるもう1つの理由は、近年起きている「リモート化」の波だ。人が現場で手を動かすのではなく、ロボットの遠隔操作で代替できれば、危険な作業や重労働、暑さや臭気といった厳しい労働環境から解放できるほか、育児中の従業員が自宅から製造現場のロボットを操作するなど、人手不足解消にもつながる。

すでに川崎重工とソニーグループでは「リモートロボティクス」という事業会社を立ち上げ、ロボットのリモート化を見据えたサービス提供の実現を目指しているという。

リモート・高密度をかなえる最新ロボット。そして「人型」に託す未来

人手不足、ロボット密度の向上、リモート化。この業界の未来を考える上での“キーワード”といえそうだが、同社ではそれに対応する製品も揃っている。

まず、人手不足とリモート化に寄与するのが「Successor(サクセサー)」というシステム。ロボットをリモート操作できるもので、作業員は遠隔から「コミュニケーター」と呼ばれるコントローラーユニットを介してロボットを動かす。

「一度行った操作はAI技術で学習し、次には『完全自動』で再現することも可能です。この機能は技能伝承にも活用でき、たとえば熟練作業者が操作した内容を記憶し、それを再現しながら新人作業者が操作を覚えることもできます」

ロボット密度への貢献を期待できる製品もある。通常、ロボットを導入する際は周囲に安全柵を設置する必要があり、その分のスペースが必要だった。しかし同社の「duAro(デュアロ)」は、安全柵をつけず、人一人分の設置スペースで人間と協働できる。

「ロボットの腕部分(アーム)が2本ある双腕型で、主流である腕1本より複雑な作業が可能です。人間のように、片腕で物を抑えて、もう片腕で何かをつけるなどの動きができるのです」

デュアロに自走機能を付加し、さらにサクセサーの遠隔操縦を組み合わせた双腕自走ロボット「NYOKKEY(ニョッキー)」もある。作業の自由度が増し、製造現場だけでなく、外食や介護、警備など、幅広い分野に展開できそうだ。

「私たちが目指すのは、産業用ロボットメーカーから社会課題を解決する総合ロボットメーカーになることです。だからこそ製造現場にとどまらない、さまざまな課題を見据えて製品を開発していきます」

社会課題を解決する総合ロボットメーカーへ。そんな思いは、同社の進めるヒューマノイド(人型ロボット)のプロジェクトにも表れている。

現在開発しているものとして、成人平均サイズ(175cm、80kg)の「Kaleido(カレイド)」と、スリムタイプ(168cm、53kg)のFriends(フレンズ)がある。カレイドは80kgまでの重量物を運べ、フレンズは5本指の手を持つのが特徴だ。

夢はあるものの、実用化のハードルが高いヒューマノイド。産業用ロボットを開発する企業で挑戦しているのは、もはや同社しかいないという。それでも立ち向かうのはなぜか。

「世の中の人工物はすべて人間が使うように設計されており、人型ロボットこそがさまざまな社会課題解決に貢献できると考えているからです」

ときには“絵空事”のように捉えられる人型ロボットだが、川崎重工はあきらめていない。日本初のロボットメーカーが培った確かな技術を支えに、究極形を目指した歩みは続いていく。

(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

※記事の内容は2023年7月現在の情報です

著者/ライター

有井 太郎

ビジネストレンドや経済・金融系の記事を中心に、さまざまな媒体に寄稿している。企業のオウンドメディアやブランディング記事も多い。読者の抱える疑問に手が届く、地に足のついた記事を目指す。

提供元「東証マネ部!」

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