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「日本はこれから繁栄の30年サイクルに」。渋澤健が語る、日本再興につながる「面白い宿題」とは

この国がいま世界で重要な理由

(※本記事は2022年9月12日に「東証マネ部!」で公開された記事の転載です)

これからの日本経済・日本市場に成長可能性はあるのか。いわば投資における“日本の未来”を有識者が占う連載「日本経済Re Think」。今回お話を聞いたのは、シブサワ・アンド・カンパニー 代表取締役の渋澤健氏。

渋澤氏は、外資系金融機関およびヘッジファンドでマーケット業務に携わり、2008年にコモンズ投信を創設。また、最近は岸田政権の「新しい資本主義実現会議」の委員を務めるなど、マーケットと政策の両面から日本を見てきた人だ。渋沢栄一の玄孫としても知られる。

その彼は、これから30年の日本について「面白い宿題を与えられた」と話す。その言葉は何を意味するのか。渋澤氏に尋ねた。

渋澤氏の「持論」からひもとく、日本経済のこれからとは

今後の日本経済を見たとき、果たして未来は明るいのだろうか。そんな質問を投げかけると、渋澤氏は「悲観的な見方をする方が多いのですが、私はこれから日本が良くなると期待しています」と切り出した。

その理由として「日本経済は30年周期で破壊と繁栄を繰り返す、というのが私の持論だからです」と話す。

渋澤氏の“持論”とはこういうものだ。1990年頃から現在までの約30年は「失われた30年」と呼ばれてきた。苦しみの時代だ。一方、それ以前の30年、1960年頃~1990年頃は高度経済成長期であり、バブルのピークも到来。繁栄の30年だった。

さらにさかのぼって1930年頃~1960年頃を見ると、日本は敗戦を経験し、これまでの常識が破壊された時期。だが、その前の1900年頃~1930年頃は、日露戦争を経て日本が後進国から先進国に追いついた繁栄の時代だった。ではさらにその前はどうか。1870年頃~1900年頃は明治維新が起き、江戸時代の常識が破壊された30年だった。

つまり、30年周期で破壊と繁栄の時代が交互に来ているというのだ。

「乱暴で大雑把な持論であることは承知の上で、日本は30年ごとにこのサイクルを繰り返してきました。繁栄が続くとおごりや傲慢が生じて、次の30年で何かしらの破壊を招く。しかしその破壊でリセットされると、また国を再興し繁栄につながる。このリズムが一定続いていることを考えると、これからの30年、日本は繁栄の時代になると考えています。それは経済の物質的な成長という意味に限らず、日本が自尊心を取り戻す、世界で独自のポジションを取り戻し繁栄するという意味です」

渋澤氏は、自らコモンズ投信を立ち上げた2008年頃から、日本は破壊の30年サイクルの終盤にあると感じていたという。しかし、それから2019年の暮れまで、10年以上も「とどめになるような徹底的な破壊の瞬間、サイクルの転換点が来ないな」と考えていた。ただ、2020年に日本を含む世界の常識を揺るがす大惨事が起こった。まさに、徹底的な破壊の瞬間が訪れたという。

「新型コロナの到来によって、これまでの常識が完全に破壊されました。さらに、日本の少子高齢化は加速し、人口動態の変化で日本社会がかつて体験したことのない壮大な世代交代が始まっています。まさに決定的な破壊が起きたといえます。だからこそ、ここで破壊の30年を終え、繁栄の周期へ移っていくと思うのです」

ちなみに余談だが、渋沢栄一が実業家として活躍したのは、1870年代からの30~40年。日本初の銀行となる「第一国立銀行(現みずほ銀行の前身のひとつ)」を設立したのは1873年。当時33歳だった。これを上述のサイクルと照らし合わせると、彼の実業家としての日々は、破壊の時期を乗り越え、終盤で繁栄に移ったといえる。

「きっと現代でも、破壊から繁栄へと移る中で、渋沢のように過去の常識にとらわれることない時代の先覚者が日本に出てくるでしょう。いや、もう出ていると思います。もっとも、渋沢自身は当時、自分のやっていることを『きわめて常識的』だと考えていたでしょうが(笑)」

ではこの先、伸びる日本企業のポイントはどこにあるのか

いずれにせよ、これからの日本は新しい時代の周期に入るというのが渋澤氏の見解だ。ただ、人口減少が確実な日本で、本当に繁栄などあり得るのか。そんな疑問も湧いてくる。しかし、渋澤氏はこう答える。

「逆にこの状況で感じるのは、日本が非常に面白い立場になったということです。これまで世界は人口が増える前提で経済活動をしてきました。また土地や資源の限界も意識していなかった。しかし、多くの国で今後は人口減少が起きます。また、土地も資源も有限だとわかってきた。そういった課題に先進国として最初に向き合うのが日本であり、解決すれば世界的にも大きな価値を持つ国になります」

日本に課せられたテーマは「人口増に依存しない繁栄」であり、それは人類の可能性を試されていることと同義だと渋澤氏。だからこそ、日本には「とても“面白い宿題”が与えられたと思います」と微笑む。その宿題を解くことができれば、地球全体の繁栄につながるのはもちろん、日本が世界で存在感を発揮するきっかけにもなる。

では、投資家はこの状況で日本企業をどうチェックすれば良いのだろうか。どんな企業に伸びる可能性があるのか。渋澤氏はひとつのカギとして「企業の人的資本に対する動きを見ること」を挙げる。

人的資本とは、個人の能力やスキルといった価値を資本とみなす考え方。その個人の価値を最大限に引き出す経営は「人的資本経営」といわれており、近年、企業の重要な要素に。また、人的資本に関する企業の情報開示も世界的に進んでおり、投資家の大きな判断材料となっている。

そして渋澤氏も、人的資本経営を行う日本企業こそ、これから期待できるという。

「わかりやすくいえば、これまでの賃金制度を変え、成果を出す人に賃金を払う構造に転換できる企業は伸びていくでしょう。なぜなら今後、日本企業は過去にない規模とスピードの世代交代が起きます。いま、特に大企業の人口動態の最大ボリュームゾーンはバブル期入社の50代。その世代が一気にリタイアすると人件費の一番高い部分が抜けることに。すると、賃金制度も大きな転換期を迎えます」

今後、終身雇用や年功序列など、昭和的な経営を引きずる企業は「厳しくなる」と渋澤氏。一方、そこから脱却できる企業は伸びる。結果、「人的資本に取り組む企業とそうでない企業の格差が広がるのでは」と予見する。

「若い世代の価値観も変わっており、自分がやりたいことや十分な対価が得られないなら転職することもいといません。すると、昭和の賃金制度を引きずる企業には安定を求める人材ばかり集まる可能性も。ここで大切なのは、安定を求める人材の集まった企業は“変わりにくい”のです。つまり、競争に勝てない可能性が高くなります」

だからこそ、投資家が見るべきは企業の人的資本に対する動き。そこに今後伸びる企業のヒントがある。

なお、渋澤氏が参加した「新しい資本主義実現会議」でも、人的資本や賃金のあり方は議題に上ったという。これから国を挙げて考えるテーマであり、投資でも重要なファクターになるのは間違いない。

「マクロで見ると、日本の人的資本は遅れています。それは企業の人材に対する能力開発費を見ても明らかです。厚生労働省のデータに、GDPに占める企業の能力開発費の割合を国際比較したものがあるのですが、2010~2014年とデータは少し古いものの、アメリカの2.08に対して日本は0.10。それも、約30年前の0.40から下降基調です。それほど日本企業は能力開発費に割く比率が低いのです」

とはいえ、現状が低いからこそ、テコ入れする企業は成長につながる。それが渋澤氏の描くシナリオだ。

なお、ひるがえって直近の経済の動きを見ると、国際的な動乱も相まって日本市場は伸び悩んでいる。ただその状況に対し、積立投資を広めてきた渋澤氏はこんなアドバイスを送る。

「みなさん株価が下がるとネガティブになりますが、『下がったときこそ、同じ投資金額でたくさん株数が買えるので逆に喜んでください』と講演会などではお伝えしています。これが積立投資の効能なのです」

ここまでは利益を求める上での日本経済への投資を考えてきた。だが取材の最後、渋澤氏は利益の視点を超えて、日本経済や日本企業に投資する意義を口にする。

「日本株に投資する意義はすごくシンプルです。それは日本人だから。世界に事業を展開できる日本企業が存在しているのに、なぜ日本人が応援しないのでしょうか。かつて日本はメイドインジャパンで隆盛を極め、その後、メイドバイジャパンという形を作った。そしてこれからはメイドウィズジャパンの時代です。人口減少の波が最初に来る先進国として、日本が難題を解決し、その後、“日本と一緒に”持続的な生活を作ろうと輪を広げていく。私はそんな未来を期待しています」

人口減少や資源の限界。そういった地球の課題と最初に対峙する日本は、どう「面白い宿題」を解決していくか。その道のりを歩む中で、次なる「繁栄の30年」がきっと訪れる。

(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

※記事の内容は2022年8月現在の情報です

提供元「東証マネ部!」

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